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MORNING TALK

朝の心

孤独な社会をつくらないために

2019.06.19
朝の心

 先月川崎市で、児童ら20人が殺傷された悲しい事件がありましたね。ネットでは、事件の容疑者に対し「死にたいなら一人で死ぬべき」といった意見が広がりました。その数日後、元農林水産事務次官が自宅で長男を殺害する事件が起こりました。これは川崎市の事件と無関係ではなさそうです。父親が「長男が自分や周囲に危害を加えるかもしれないと思った」と、川崎市の事件を念頭に置いた供述をしているからです。「一人で死ぬべき」とか「罪のない人々に危害を加える前に・・・」などのコメントが父親を追い詰めたのかもしれません。川崎市の事件を起こした容疑者は社会との接点がほぼなく、父親に殺害された長男もひきこもりがちであったと言われています。さらに、父親も家族の中だけで問題を抱えてしまっていたのではないかと思われます。これらの事件の背景には、「社会からの孤立」という問題がありそうです(「陸奥新報」参照)。

 先週、高校生たちと一緒に乳児院でボランティア活動をしました。その際、私が担当した部屋で繰り広げられた光景を紹介します。

 一人でやっと立てるようになったくらいの女の子に、ある職員の方が「〇〇ちゃーん」と呼びかけました。すると女の子はすぐに「はーい!」と言って手を上げたのです。それは、その子が名前を呼ばれて手を挙げた、初めての瞬間でした。他の職員たちもびっくり!そして皆で「すごいね!えらいねー」と言いながら、部屋中が拍手と喜びに満ちました。

 子どもが名前を呼ばれて返事をするという行為には、大切な前提があります。それは、職員の方たちが何度も何度もその子の名前を呼び続けていたということです。生まれてから何十回、何百回、何千回以上でしょう。そうした呼びかけが続いたからこそ、初めて反応してくれた瞬間に大きな喜びが生まれたのです。

 事件は複雑な事情が絡み合って起こりますが、日本の社会問題の一つである「孤独」という観点から考えた場合、このような悲しい事件をもう二度と起こさないために、私たちは、孤独な人をつくらない社会を築く努力を、身近なところから始めなければなりません。その一歩として、周りの人に声をかけてみましょう。特別な言葉でなくていいのです。「おはよう」「元気?」「大丈夫?」「また明日ね」などふだん何気なく使っている言葉だけで、互いの関係が変わり、雰囲気が変わります。それは、孤立している人、寂しい思いをしている人、何かに悩んでいる人にとっては、時には救いになるきっかけになるかもしれません。

 学院は、一人として寂しい人や孤独な人がいない学校でありたいと思います。そのために、今日も心を込めて互いに声をかけ続けていきましょう。

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